中医学(中医学基礎理論・中医診断学・中医内科学)を詳しく説明する一般社団法人国際伝統中医学協会の「中医学大辞典」

陰と陽

「陰陽は事物の異なる属性である」という観点で、人体の部位、組織構造、生理的活動などを陰と陽の2つに大別している。

背は陽で腹は陰、六腑は陽で五臓は陰、気は陽で血は陰、興奮は陽で抑制は陰などである。この分類法は病証や脈象の弁別にも用いている。病証については 、表証、実証、熱証は陽に、裏証、虚証、寒証は陰に属する。

陰陽可分

すべての事物は陰と陽の属性に分かれ、事物の内部も陰と陽という対立した面に分けることができるので、陰の中をまた陰と陽に、陽の中もまた陰と陽に分けることができる。事物の陰陽属性は絶対的なものではなく、相対的なものであり、ある一定の条件において陰は陽に転化することができ、陽も陰に転化することができ、分かれた陰と陽の中もさらに陰と陽に分けることができるというように、無限に分けて行くことができる。これ を「陰陽可分」という 。

昼は陽、夜は陰:

午前は陽の中の陽であり、午後は陽の中の陰と区分さ れる。日没から深夜中までは陰の中の陰であり、深夜中から夜明けまでは陰の中の陽と区分される。このように陰陽の中にさらに陰陽の区分がある。

宇宙間のあらゆる事物は、すべて陰と陽に概括することができ、あらゆる事物の内部は、陰と陽の2方面に分けることができる。さらに、1つ1つの事物の陰、或は陽もまた、陰と陽に分けることができる。この陰陽可分の観点が、人体の組織構造、生理的機能 、病理的変化、弁証論治などに広く用いられている 。

陰陽の互根互用

陰陽の互根互用とは、陰と陽の間に相互依存、相互資生の関係があることを意味する観点である。陰は陽に、陽は陰に依存することを「陽は陰に根ざし、陰は陽に根ざす」「陽無くして陰生ずるなし、陰無くして陽の化するなし」などと述べている。

陰と陽は、それぞれ単独で存在することはできず、相手側の存在を自身の存在の条件としている 。

上は陽で下は陰:

上がなければ下は存在せず、同様に下がなければ上を論じることもできない。

熱は陽で寒は陰:

熱がなければ寒もなく 、寒がなければ熱を論じることができない。

陰陽の互根互用関係は、人体においても様々な方面に現れる。

臓腑組織の構造と機能との関係:

臓腑組織の構造は陰に属し、生理機能は陽に属している。

この両者には物質と機能との関係があり、互いに根ざしあっている。物質がなければ機能を生じることができず、また機能がなければ物質の形成を促すことができない。

中医学理論では、陰陽の互根互用の観点が広く生理、病理、治療などの面に応用さている。

  • 「気はよく血を生ず」

  • 「気はよく血をめぐらす」

  • 「気はよく血を摂す」

  • 「気は血の帥である」

  • 「血は気の母である」

  • 「気は血に随いて脱す」

  • 「血脱はまずその気を益す」

気と血の間の相互関係は、陰陽の互根互用を具体的に示している。気と血の属性は、気は陽で血は陰であり、気と血は人体の基本物質を組成している。血は、気が水穀の 精微を運化することにより生成されるので「気はよく血を生ず」と言われ、気の運化効能によって循環するので「気はよく血をめぐらす」と称され、気の固摂作用によって脈管外に 溢出することがないので「気はよく血を摂す」と言われる。

このように、気は生血、行血 、摂血の効能を持つところから「気は血の帥である」と称される。一方、気は血によって十分に栄養を供給 されてはじめて機能するので「気は血に宿る」「血は気の母である」と言われる。このように気と血は互いに根ざしあって助けあっているので、血虚の治療においては、気血双補という治療法をよく用いる。また大出血のときには「気は血に随いて脱す」という状況が生じるので、治療上は「血脱はまずその気を益す」ということが必要であり、気を補うことによって血を生じさせることができる。気虚の治療においては、適当に養血の薬食物を配合すると、気が血の濡養を得ることになり、補気がより有効になる。

疾病の経過に見られる「陽損及陰」や「陰損及陽」も、陰陽の互根互用の具体的な現れである。

例)慢性腎炎は陽虚を呈し、陽虚のために水液を蒸化出来ないので水腫が生じるが、陽虚が一定の程度になると陰液の化生ができなくなり、陰虚の面が現れる。同様に、陰虚の病証でも、陰虚が一定程度に達すると、陽気も不足して陽虚が発生する。

例)高血圧症は一般に陰虚陽亢を呈するが、経過が長びいて病状が悪化すると陰陽両虚が現われる。

陰陽の制約

人体の陰と陽は相互に制約しているので、陰か陽の一方が偏衰すると、もう一方が相対的に充盛となり、陰か陽の一方が偏勝(偏盛)すると、もう一方が虚衰する。このような陰陽の正常な相互制約の関係が失調すると、偏勝、或は偏衰の状況が現われて疾病が生じる。陰陽制約の観点は、中医学の生理、病理や病邪と人体の関係の解釈及び治療面に広く用いられている。

生理的には、肝陰は肝陽を制約して肝陽を上完させない。病理的には、肝陰が不足して肝陽を制約できなくなると、肝陽上亢が発生する。病邪と人体の関係では、陽邪が侵入すると陽偏勝となり、体内の陰液を消耗するので、熱証が生じる。逆に、陰邪が 侵入すると陰偏勝となり、陽気を損傷するので、寒証が現われる。一方、陰か陽の偏衰によ る病証では、一方が不足しているために相対する別の一方を制約することができず、別の一方が相対的に亢盛となる 。

例)陰虚のために陽気を制約できず、陽亢、虚熱などが生じ、その時は、陰虚が本質である。 逆に、陽虚のために陰を制約できず、消化不良下痢、明け方の下痢、水腫などの「陰寒内盛」が現われ、その時は、陽虚が本質である 。

このような関係により陰は陽の亢進を制約し、陽は陰の行き過ぎを制約し、陰陽の偏った盛衰を矯正している。なお、陰陽制約の中でも「陰陽消長」と陰陽の「偏勝・偏衰」には区別 と関連性が あること を認識しておく必要がある。

陰陽の制約構成図

陰陽の消長

陰陽の消長とは、陰陽の双方がたえず「陰消陽長」或いは「陽消陰長 」という運動変化の状態にあるということであり、静止した不変のものではない。またこれを「消長平衡」ともいう。陰陽のバランスが静止している固定した平衡状態ではなく、一定の範囲の中で、一定の時間内で「陰消陽長」或いは「陽消陰長」を繰り返し、これにより陰陽のバランスを維持している。

例)自然気候の変化は、冬から春に変わって夏になると、寒かった気候は徐々に暖かくなって暑くなるが、それは「陰消陽長」の過程である。また、夏から秋冬になると、暑かった気候が寒くなるが、それは「陽消陰長」の過程である。

四季の気候における陰陽消長の変化は、主として寒熱温涼の差異として現れるが、このような差異と疾病とは、密接な関係がある。

例)夏至と冬至は陰陽が交替、転化するときであり、このためにその時期に発病しやすく死亡率も高い。春分と秋分は陰陽のバランスがとれているときであるので、その時期に発病率は少なく死亡率も低い。

一年四季の移り変わりは、陰陽消長の過程を示しているが、一年を通してみれば、やはりバランスの状態にある。生命活動の過程において、各種の機能活動(陽)の営みには、必ず一定の栄養物質(陰)が消耗される。これが「陽長陰消」の過程である。 また、各種の栄養物質(陰)の新陳代謝には必ず一定のエネルギー(陽)が消耗される。 これが「陰長陽消」の過程である。このような陰陽の絶え間ない消長の変化により、事物を正常に発展させ、人体の生命活動を維持している。

「陰消陽長」だけで「陽消陰長」がなければ、或いは「陽消陰長」だけで「陰消陽長」がなければ、陰陽の相対的なバランスが失調され、陰または陽の「偏盛」や「偏衰」が起こって陰陽の消長がおかしくなり、人体の場合には、病理状態となる。

「陰陽消長」は、正常な状態において、陰と陽が静止不変の絶対的平衡状態にあるのではなく、生理的な範囲内で変動していることを指す。気、血、津液が生成して代謝され、五臓が精気を蔵し、六腑が物を伝化するのは、絶え間のない「陰消陽長」と「陽消陰長」の過程において、相対的バランスが維持されていることによるものである。一方、陰陽の「偏勝・偏衰」は、正常な相対的バランスが破壊されて自己調整ができないことを指し「陰陽失調」に相当するものであり、疾病を発生する根本的原因でもある。

陰陽の転化

すべての事物の陰陽は、一定の程度または一定の段階に達すると、それぞれ相反する方向へと転化することがある。これを陰陽転化という。つまり、陰は陽に転化し、陽は陰に転化することができる。

陰陽転化は、主に疾病の証候の変化をあらわすものであり、陰証と陽証が相互に転化することを示す。陰証から陽証への転化とは、具体的には寒証が熱証に、虚証が実証に変化することである。同様に、陽証から陰証への転化とは、熱証が寒証に、実証が 虚証に変化するこ とを示す。

陰陽の転化には、一定の条件が必要である。陰陽の一方の状態が最高度に達した時に、他方に転化する可能 性が生じる。陽が極まると陰となり、陰が極まると陽となり、寒が極まると熱を生じ、熱が極まると寒が生じる。疾病の発展過程においては、陽証から陰証へ、陰証から陽証への変化がよく見られる。

例)急性の温熱病では、熱毒が非常に盛んになり、正気をひどく損傷すると、高熱が 持続していたものが突然体温が下がり、顔面蒼白、四肢厥冷となることがある。これは陰寒の危険な現われであるが、この変化は陽証から陰証へ転化したものである。

その時、すぐ救急手当てを与え、適当な措置 を取ると、四肢温暖になり、顔色に赤みが見え、脈も徐々に強くなってくる。これはつまり、陽気が戻ってきて、陰から陽に転化し、病情がよい方向に向かって転化したものである。

気管支喘息では、気道感染を反復することによって元来の寒哮が熱哮に変化することがあり、急性腎㿻腎炎で治療の不徹底、細菌の薬物抵抗性、反復発作などによって元来の下焦湿熱の実証が腎陰不足、陰虚火旺の虚熱証に転化し、ひどい場合は、腎陽虚の虚寒証にまで転化することがある。

このように疾病の証候の転化には一定の条件が必要であり、一定の条件が揃わない時には転化することはない。

以上が陰陽学説の基本的観点である。陰と陽は互いに孤立しているものではなく、互いに連絡しあい、影響し合っており、相反しながらも、互いに助けあう関係にある。このような基本的観点を把握していれば、中医学における陰陽学説の運用を理解することが容易になる。

組織構造

陰陽学説の基本的観点で多くの 医学に関する内容に言及したが、その応用は非常に広範囲にわたっており、以下は生理、病理、診断、治療、薬物の面における具体的な応用について述べ る 。

人体は1個の統一体であるが、人体内部にも陰陽の対立と統一関係が存在している。すべての組織構造を陰陽の両面から区分することができる。

生理機能の説明

陰陽学説では、陰陽双方が対立・ 統一による協調関係を持っている結果、人体の正常な生命活動が行なわれていると考えている。

例)陽に属する機能と陰に属する物質との関係は、この対立・統一による協調関係の現われである。人体各種の機能活動(陽)が営まれるには必ずそれだけの栄養物質(陰)の消費がある。また、栄養物質(陰)の生成にはどうしても臓腑の機能活動や 一定量のエネルギー(陽)が費やさなければならない。これはまさに陽長陰消(或は陰消陽長)、陰長陽消(或は陽消陰長)の運動変化の過程ということができる。

病理変化

陰陽学説では、人体の病理変化を陰陽失調として考え、邪と正も陰陽によって分析する。

「邪」は陰邪と陽邪に分けることができ、陰邪による病態は陰偏勝を形成して寒盛(実寒)をあらわし、陽邪による病態は陽偏勝を形成して熱盛(実熱)を呈する。

「正」は陽気と陰液の両面を含み、陽気の虚では虚寒が、陰液の虚では虚熱が現われる。

以上のことから、多種多様の病理的変化は「陰勝則寒、陽勝則熱、陰虚則熱、陽虚則寒」(陰勝ればすなわち寒、陽勝ればすなわち熱、陰虚すればすなわち熱、陽虚すればすなわち寒)という四句に概括できる。根本原因は陰陽失調であり、偏勝か偏衰による病態である。

また「陽損及陰、陰損及陽、陰陽倶損」(陽が損傷すると陰に及び、陰が損傷すると陽に及ぶ。陰陽ともに損傷する)がある。これは陰陽の互根互用理論によるものである。また「重寒則熱、重熱則寒」(寒が極まって熱を生じ、熱が極まって寒を生ずる)と「重陰必陽、重陽必陰」(陰が極まって陽に転じ、陽が極まって陰に転ずる) がある。 これは陰陽転化の理論によるものである。

病理変化の構成図

診断への応用

疾病の発生と発展の根本原因は、陰陽のバランス失調であり、したがって診断を行う時には、まずその陰陽の属性を識別すると、疾病の本質をつかむことができる。臨床上、最もよく用いられるのは「八綱弁証」であるが、これは陰陽を総網領としている。つまり、表、実、熱は陽に属し、裏、虚、寒は陰に属 している。

治療への応用

治療のポイントは、陰陽の調整にある。それにより、不足していれば加え、余っていれば捨てて、陰陽の相対的なバ ランスを回復させるのが治療の基本原則である。

陰陽偏勝:

邪気盛の実証→実する者はこれを漑す

陰盛の実寒証→寒はこれを熱す

陽盛の実熱証→熱はこれを寒す

陰陽偏衰:

正気不足の虚証→虚する者はこれを補う

陰虚のため陽亢(虚熱証)→陽病は陰を治す

陽虚のため陰盛(虚寒証)→陰病は陽を治す

陰陽失調を治療する基本原則は、その不足を補い、その有余を瀉すということである。陽が盛んなものには清熱、陰が盛んなものには怯寒(寒を払いのける)、陽虚のものには補陽、陰虚のものには益陰の方法で、陰陽偏盛偏衰の病変を陰陽のバランス取れた状態に回復させるものである。

薬食物の性味と作用における陰陽

陰陽学説の治療への応用は、治療原則の決定にとどまらず、さらに薬食物の性味と作用を概括し臨床における薬食物利用の指針と根拠ともされている。薬食物の性能は主にその性、味と昇降浮沈により決定されており、これらはみな陰陽から導かれている。

薬性には寒、熱、温、涼の四つがあり、これを「四気」ともいっている。寒、涼は陰に属し、熱、温は陽に属す。 薬味には主に辛、甘、酸 、苦、鹹(塩辛い)の五つが あり、五味と称し、このほかに淡味がある。そのうち辛、甘、淡は陽に属し、酸、苦、鹹(塩辛い)は陰に属す。 それぞれの味にそれぞれの働きがある。昇降浮沈というのは薬物の作用をいったものである。昇と降、浮と沈は相反した意味で、陰陽からいうと昇と浮は陽 、降と沈は陰ということになる。

臨床において、薬食を用いるときは、まず病状の陰陽の偏向(偏盛、偏衰)にもとづいて治療原則の決定を行う。次に薬食物の四気五味、昇降浮沈、陰陽の属性を考え て、必要な薬物を選択し、治療を行うということになる。

例)陰偏勝の寒盛なら辛温散寒の陽薬を用い、陽偏勝の熱盛なら苦寒泄熱の陰薬を使用する。陰偏衰の虚熱には涼性・滋潤性の陰薬で陰血と津液を濡養し、陽偏衰の虚寒には温性・熱性の陽薬で陽気を温補する。

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