中医学(中医学基礎理論・中医診断学・中医内科学)を詳しく説明する一般社団法人国際伝統中医学協会の「中医学大辞典」
緑の海と波

虚労(きょろう)

虚労とは種々の原因による臓腑虧損、気血陰陽虚弱で引き起こされる慢性の衰弱性証候の総称であり、虚労の範疇は広い。 慢性虚弱性疾患、慢性消耗性疾患の治療には本証を参照する。

<病因病機>

中医学内科学の相関図

<弁証論治>

1.気虚

(1)肺気虚

【症状】息切れ、自汗、体が時寒時熱、声音低微、咳を伴う、風邪を引き易い、顔色白。舌質は淡、脈は弱である。
 
【証候分析】肺気不足、表衛不固のため、息切れ、自汗、声音低微、時寒時熱をみる。肺気虧虚、営衛失和のため、風邪を引き易く、または咳を伴う。気虚のため、顔色白、舌質が淡、脈が弱である。

【治法】補益肺気。

(2)脾気虚

【症状】飲食減少、食後胃脘部の不快感、倦怠無力、大便溏薄、顔色萎黄。舌質は淡、苔は白、脈は弱である。

【証候分析】脾虚健運不全のため、飲食減少、食後胃脘部の不快感、大便溏薄をみる。脾虚で水穀精微の運化不能、気血の源の不足のため、倦怠無力、顔色萎黄、舌が淡、脈が弱などが現れる。

【治法】健脾益気。

2.血虚

(1)心血虚

【症状】心悸、怔忡、健忘、不眠、多夢、顔色不華。舌質は淡、脈は細または結代で ある。

【証候分析】心は神明を主り、心血虧虚、心失所養、心神不寧のため、心悸、怔忡、健忘、不眠、多夢をみる。心は血脈を主り、その華が顔面にあり、血虚で頭面を栄養できないために顔色不華をみる。舌質が淡、脈が細または結代は血虚気少、血脈不充の証候である。

【治法】養血安神。

(2)肝血虚

【症状】目眩、脇痛、耳鳴、不安、生理不順。重症の者では閉経、肌膚甲錯、顔色不華。舌質は淡、脈は弦細あるいは細渋である。

【証候分析】肝血不足、肝陽上擾のため、目眩、耳鳴、不安をみる。肝血不足、脈絡失養のため、脇痛をみる。顔色不華、舌質が淡、脈が弦細は肝血不足の証候である。 女性の肝血不足は、生理不順を来たし、重症の者では閉経をみる。瘀血内生の場合は、肌膚甲錯、脈が細渋をみる。

【治法】補血養肝。

3.陰虚

(1)肺陰虚

【症状】空咳、咽喉乾燥、喀血、あるいは失音、潮熱、盗汗、顔色潮紅。舌質は紅、少津、舌苔は少ない、または無苔、脈は細数である。

【証候分析】肺陰虧耗、肺失濡潤、静粛不能のため、空咳をみる。肺絡損傷のため、喀血をみる。津液上昇不能のため、咽喉乾燥をみる。重症の者は失音が生じる。潮熱、盗汗、顔色潮紅、舌質が紅少津、舌苔が少ない、または無苔、脈が細数は陰虚火旺の証候である。

【治法】養陰潤肺。

(2)心陰虚

【症状】心悸、不眠、煩躁、潮熱、盗汗。あるいは口舌潰瘍、顔面潮紅。 舌質は紅、少津、脈は細数である。

【証候分析】心陰虧虚、心失濡養のため、心悸、不眠をみる。陰虚内熱、心火亢盛のため、煩躁、顔色潮紅、口舌潰瘍が生じる。虚熱火劫、津液外泄のため、盗汗をみる。舌質が紅、少津、脈が細数は陰虚火旺の証候である。

【治法】滋陰養心。

(3)脾胃陰虚

【症状】口乾唇燥、食欲不振、大便燥結。重症の場合は幹嘔、しゃっくり、顔色潮紅。舌質は乾、少苔あるいは無苔、脈は細数である。

【証候分析】脾胃陰虚、運化失常のため、食欲不振をみる。水穀精微生化不足、陰虚火旺のため、口乾唇燥、大便燥結、鏡面舌をみる。舌質が紅降、無津、脈が細、幹嘔、しゃっくりは陰液枯絶、胃気欲絶の証候である。

【治法】養陰和胃。

(4)肝陰虚

【症状】頭痛、眩暈、耳鳴、目の乾燥感、日光が眩しい、視力減退、急躁、怒りっぽい、肢体麻痺、眼瞼痙攣、顔面潮紅。舌質は乾紅、脈は弦細数である。

【証候分析】肝陰不足、肝陽上亢、上擾清痰のため、頭痛、眩暈、耳鳴をみる。肝陰が目を栄養できないため、目の乾燥感、日光が眩しい、視力減退がみられる。筋脈失養のため、肢体麻痺、眼瞼痙攣をみる。肝火妄動のため、急躁、怒りっぽいをみる。顔面潮紅、舌質が乾紅、脈が弦細数は陰虚火旺の証候である。

【治法】滋養肝陰。

(5)腎陰虚

【症状】脱毛、歯牙動揺、眩暈、耳鳴。重症の者では難聴、口乾咽痛、潮熱、顧紅、あるいは、遺精、両足矮弱。舌質は紅、少津、脈は沈細である。

【証候分析】腎の華は髪にあり、歯は骨の余りである。腎陰不足のため、脱毛、歯牙動揺 をみる。腎陰虧損、髄海不足、脳失濡養のため、眩暈、耳鳴がみられる。虚火上炎のため、口乾、咽痛、顴紅をみる。腎陰虧虚、虚火易動、精関不固のため、遺精、腰酸をみる。精髄枯竭のため、難聴をみる、骨枯のため足痿をみる。舌質が紅、少津、脈が沈細は腎陰虧虚の証候である。

【治法】滋補腎陰。

4.陽虚

(1)心陽虚

【症状】心悸、自汗、精神倦怠、嗜睡、心胸痞悶疼痛、寒がり、四肢の冷え、顔色蒼白。舌質は淡あるいは紫暗、脈は細弱、または沈遅である。

【証候分析】心陽不足、心気虧虚のため、心悸、自汗、精神倦怠、嗜睡をみる。陽気不足のため、寒がり、四肢の冷えをみる。心気不足、固摂不全のため、自汗をみる。 心陽不足、血行不暢、心脈那阻のため、心胸痞悶疼痛、舌質が紫暗をみる。顔面蒼白、舌質が淡、脈が細弱または沈遅は心陽虧虚、行血無力の証候である。

【治法】温通心陽。

(2)脾陽虚

【症状】顔色萎黄、飲食減少、寒がり、精神倦怠、少気、瀬言、腹中冷痛、腸鳴泄瀉、重症の者では完穀不化。泄瀉は冷えや飲食不節により誘発される。舌質は淡、苔は白、脈は弱である。

【証候分析】脾気虚弱、脾陽不振、運化失調のため、飲食減少、寒がり、精神倦怠、少気、憚懶言をみる。清陽不展、寒凝気滞のため、腹中冷痛、腸鳴泄瀉、重症の者では完穀不化が出現する。顔色萎黄、舌質が淡、苔が白、脈が虚弱は中陽虚衰の証候である。

【治法】温中健脾。

(3)腎陽虚

【症状】顔色萎黄、飲食減少、寒がり、精神倦怠、少気、瀬言、腹中冷痛、腸鳴泄瀉、重症の者では完穀不化。泄瀉は冷えや飲食不節により誘発される。舌質は淡、苔は白、脈は弱である。

【証候分析】脾気虚弱、脾陽不振、運化失調のため、飲食減少、寒がり、精神倦怠、少気、憚懶言をみる。清陽不展、寒凝気滞のため、腹中冷痛、腸鳴泄瀉、重症の者では完穀不化が出現する。顔色萎黄、舌質が淡、苔が白、脈が虚弱は中陽虚衰の証候である。

【治法】温中健脾。

(3)腎陽虚

【症状】顔面蒼白、畏寒肢冷、下痢清穀、五更泄瀉、腰背酸痛、遺精、陽萎、多尿ま たは尿失禁。舌質は淡胖、歯痕、苔は白、脈は沈遅である。

【証候分析】腎陽不足、命門火衰弱、火不生土のため、下痢清穀、五更泄瀉をみる。 腎陽不足 、温煦失常のため、畏寒肢冷をみる。腰は腎の府であり、督脈は脊髄を貫いて腎に絡い、腎陽不足のため、腰背酸痛をみる。腎陽衰弱、精関不固のため、遺精、陽萎をみる。腎気不固のため、多尿または尿失禁が生じる。顔色蒼白、舌質が淡胖、歯痕、苔が白、脈が沈遅は陽気不足、陰寒内盛の証候である。

【治法】温補腎陽、兼養精血。

虚労の臨床においては:

  1. 複雑性(気血陰陽不足の複合性)
  2. 多様性(多臓腑に関連する)
  3. 長期性(経過・病程が長い)
  4. 難治性(短期間での治療効果が顕著でなく、治療効果が不明瞭)

の特徴がある。虚労の治療においては、脾胃中気が鍵となる。

虚労に表証を伴う場合 も多くみられる。その場合には正気を十分配慮した上で、解表治療(扶正祛邪)を行うべきである。

虚労は経過・病程が長いため、瘀血が多くみられる。活血化瘀剤を加える場合は脾胃中気の保護に留意することが大切である。

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